ニュースの概要

水処理装置を扱うNixJAPANグループが、インドネシアに新たな現地法人を設立した。背景には、同国の深刻な水質汚濁問題と、急速な工業化・都市化に伴う水需要の増大がある。日本経済新聞が報じたこのニュースは、中小規模の日本水処理企業が東南アジア市場へ本格参入するケースとして注目される。日本国内では市場が頭打ちになりつつある一方、海外、とくに新興国では膜分離技術やろ過システムの需要が拡大を続けており、現地パートナーとの連携や価格競争力をどう確保するかが成功の鍵を握る。同社は東南アジアを足がかりに、グローバル展開を加速させる狙いとみられる。

引用元: NixJAPANグループ、インドネシアで水処理関連の新会社を設立(日本経済新聞)

分析・見解

インドネシアが「次の主戦場」になった構造的理由

東南アジア諸国の水需要は、人口増加と産業成長を背景に年率7〜9%で拡大してきたとされる。そのなかでインドネシアは2億7千万人を超える人口を擁し、国家開発計画の中でもクリーンウォーター(安全な飲料水)へのアクセス率向上が最重要項目に位置づけられている。地方都市の上下水道整備率は依然として低く、工業団地における排水規制の強化も進む。この「インフラ未整備」と「規制強化」が同時に進行する局面は、まさに水処理装置ベンダーにとって参入余地が広い市場環境といえる。一方、国内市場では水道管路の老朽化更新が中心で、新規設備の伸びは限定的だ。そうした構造的な国内市場の飽和が、中小企業の海外シフトを後押ししている。

日本製「中小型・モジュール型」の強みと弱み

日本の水処理メーカーの強みは、大型のプラント設計だけでなく、RO膜(=逆浸透膜。水の分子だけを通し不純物を遮るろ過膜)やUF膜(=限外ろ過膜。ウイルスや高分子を通さない精密フィルター)を組み合わせた中小型・モジュール型の据え置き装置にある。コンテナサイズで運搬でき、設置工期を短縮できる点は、新興国の現場ニーズと非常に相性が良い。一方で弱みは価格だ。日系膜モジュールは MB R(=膜分離活性汚泥法。生物処理と膜ろ過を一体化した排水処理方式)向けの海外製プレイヤーに比べ、導入単価が2〜3割高くなる傾向がある。NixJAPANが今回の設立で、現地での組立や部品調達に踏み込むとすれば、この価格差をどこまで縮められるかが競争力の分かれ目になる。

「水処理」から「水サービス」への業種転換が問われる

従来、日本の水処理装置メーカーは「装置を売る」ビジネスモデルが中心だった。だが、たとえばシンガポールの上水公社PUBや、ベトナンの Vinaconex などは、装置販売だけでなく運転管理まで含めたパッケージ提供を主流にしている。メーカー自らがKPI=(重要業績評価指標。たとえば給水量や水質改善率など)にコミットし、利用料金で回収する「水サービス」型への移行は、装置価格だけでは評価されない収益モデルだ。今回のNixJAPANの動きも、こうした業態変化の先取りとみることもできる。

PFAS規制の世界的な波及が追い風になる

ここ数年、P F A S(=有機フッ素化合物。人の健康や生態系に長期的な悪影響が出る懸念から各国で規制が強化されている)の汚染問題は、先進国だけでなくインドネシアを含む東南アジア各国にも波及しつつある。工業排水や泡消火薬剤由来の汚染が確認された地域では、除去技術の需要が急増している。日本メーカーはP F A S吸着材や活性炭複合フィルターなどの先端素材で先行しており、今回の進出は規制強化の先取りという側面も持っている。

ビジネスへの影響

進出企業の実務担当者が直面する3つの意思決定ポイント

まず初めに、現地パートナー選びが成否を分ける。インドネシアでは水処理案件の認可プロセスに中央政府と地方政府の双方が関与するため、行政対応の経験を持つ現地資本との合弁が望ましい。次に、保守・サービス網の構築を初期段階から組み込む設計が不可欠だ。とくに島嶼部(しましょぶ、点在する島々の地域)が多い同国では、ジャカルタやスラバヤ以外の都市で迅速な保守対応ができるかどうかが顧客の信頼に直結する。最後に、価格体系を円の為替変動からローカル通貨建てに切り替えるかどうか。ルピア建てに切り替えると短期的な為替リスクは増すが、現地調達を増やせば価格は安定する。

国内の中小水処理メーカーへの3つの示唆

第一に、「国内市場の伸び悩み= نهاية(終わり)」ではないということだ。国内外を一本で結ぶ戦略を取れば、国内工場の稼働率を上げつつ、海外案件でその技術の高付加価値分を回収できる。第二に、装置販売に依存しない収益モデルの構築が急務であり、メンテナンス契約や遠隔監視サービスを組み合わせた「リカーリングレベニュー(毎月継続して入る繰り返し収益)」の比率を高めていく必要がある。第三に、人材育成の観点では、海外赴任を想定した若手技術者の育成プログラムを早期に整備しないと、事業のスケールアップ段階で人材不足がボトルネックになる懸念がある。

投資家・支援機関へのアクション提言

地方自治体やJ E T R O(=日本貿易振興機構。中小企業の海外展開を支援する公的機関)は、今回の事例をモデルケースとして、横展開可能な支援パッケージを整備すべきである。具体的には、現地の許認可サポート、商慣行の翻訳サービス、初期段階の信用保証枠の設定などである。投資家サイドでは、短期的な受注金額ではなく、5年スパンでの現地サブスクリプション(定額利用料)収入の積み上げを評価基準にすべきだろう。

関連記事

[PR]