毎時1万600立方メートルの排水を処理するVeoliaのブラジル案件
ニュースの概要
Veolia Water Technologiesは、ブラジルの製紙・パルプ大手Araucoが運営するSucuriúパルプ工場に、産業排水の処理ラインを設計して納入すると発表した。処理能力は毎時1万600立方メートルに達し、人口約300万人の自治体が出す有機汚濁に相当するという。中核となるのは、微生物を付着させた担体を水中で動かす方式と、従来の活性汚泥法を組み合わせたBASと呼ばれる工程だ。限られた敷地でも処理量を引き上げられる点が特徴である。さらに汚泥の脱水にも独自の機器を組み合わせ、工場全体の環境負荷を抑える狙いが示された。
引用元: Veolia、ブラジルの大型パルプ工場向けに毎時1万600立方メートルの排水処理設備を受注(Veolia Water Technologies)
分析・見解
人口300万人分の汚れを一つの工場が出す現実
パルプ工場は、木材から繊維を取り出す過程で大量の水を使う。その排水には、木の成分に由来する有機物が高い濃度で含まれる。今回の設備は、人口約300万人の都市が出す汚濁に相当する負荷を受け止める。東京23区の人口が約980万人なので、およそその3分の1の規模である。
つまり一つの工場が、中規模の大都市に匹敵する汚水の発生源になりうる。下水道を整えた都市と比べ、工場の排水は注目されにくい。だが環境への影響は同等かそれ以上になる。
担体と活性汚泥を重ねる方式が敷地の制約を破る
活性汚泥法は、微生物の塊を大きな槽で水になじませ、汚れを分解させる方法だ。信頼性は高いが、広い槽が要る。そこで移動床式生物膜反応器(=小さなプラスチック片に微生物を住まわせ、槽の中で漂わせる装置)を前段に置く。微生物が付着する面積が増えるため、同じ体積でより多くの汚れを分解できる。
この二段構えがBASの考え方である。既存の槽を活かしたまま能力を上げやすく、新設でも敷地を抑えられる。パルプ工場は原料の木材置き場や乾燥設備で広大な土地を使うので、排水処理に割ける面積は意外に限られる。省スペースは、単なるコスト削減ではなく、工場の拡張余地を守る意味を持つ。
汚泥の脱水まで含めて設計する意味
もう一つの要点は、汚泥の扱いだ。排水処理では、水がきれいになる代わりに汚泥が生まれる。この汚泥は水分が多く、運搬や焼却のコストがかさむ。ベルトプレス式の脱水機で水分を絞れば、体積が減り、処分費も下がる。
処理水の質ばかりが語られがちだが、現場の運転費を左右するのは汚泥の量である。水と汚泥を別々の案件として発注すると、境目で責任が曖昧になる。一括で設計する価値は、ここにある。
水処理の競争軸は膜から運用の総合力へ移る
本サイトでは膜技術やPFAS対策を取り上げてきた。だが今回の案件は、最先端の膜ではなく、実績のある生物処理を巧みに組み合わせている。大量で濃い排水には、まず生物処理で大半を落とす構成が現実的だからだ。
今後は、処理水を工程用水として再び使う動きが強まるだろう。ブラジルは水資源が豊かな国だが、地域によって渇水が起きる。環境規制が厳しくなれば、排水の質を上げる投資は避けにくい。設備を売る競争から、運転まで含めて成果を保証する競争へと移っていくと見られる。
ビジネスへの影響
大量排水を出す企業は設備更新の前に敷地を測る
食品、紙、化学など、排水の多い業種では、処理槽の増設が敷地の制約で止まる例が多い。今回のように担体を使って能力を底上げする方式は、既存槽の改造で対応できる可能性がある。更新計画を立てる際は、新設だけでなく増強の選択肢も並べて比べたい。
見積もりでは、初期費用だけでなく、汚泥の処分費と電力費を含めた年間運転費で比較することが大切である。
水処理企業や投資家は一括受注の型に注目する
設計、機器、汚泥処理を一社でまとめて受ける型は、利益率が高く、保守契約にもつながりやすい。中堅の水処理企業が同じ土俵で戦うなら、特定の業種に絞った運転ノウハウが武器になる。
投資の観点では、新興国の大型工場向け案件が続くかが見どころだ。受注の背景には、輸出先の環境基準や、取引先からの調達条件がある。ESGの要求が厳しい市場に製品を売る企業ほど、排水への投資を迫られる。
日本企業が今から備えておくべき三つの視点
一つ目は、自社の排水量と負荷を数字で把握することだ。二つ目は、処理水の再利用先を工程内に見つけることだ。三つ目は、海外の取引先から水リスクの開示を求められる前に、監査対応の資料を整えることである。
これらは大企業だけの課題ではない。取引先として選ばれ続けるための条件になりつつある。